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高松高等裁判所 昭和34年(う)264号 判決 1960年1月26日

被告人 久岡繁則

主文

本件控訴を棄却する。

理由

一、被告人の控訴趣意中量刑不当を主張する以外の論旨について、

論旨は先ず中央愛媛新聞は県民多年の要望に応えて生れた不偏不党厳正中立の立場を堅持する新聞で選挙目あてのいわゆる朦朧新聞ではない、掲載した選挙に関する記事も朝日毎日読売産経等の中央紙や地元愛媛新聞等が掲載している程度のものに過ぎない、公職選挙法第一四八条第三項第一号は選挙目あての害毒紙のみを防ぐ目的で制定されたものである、従つてたとえ告示前一年未満の新聞であるにしても選挙目あてでない中央愛媛新聞は取締規定の対象となるものではないという。

しかし公職選挙にあたつては論旨のいうようないわゆる選挙目あての新聞紙又は雑誌が発生し、ともすれば選挙に関する報道又は評論等の記事において特定の候補者を当選さす目的で支援し、或は反対候補者を当選させない目的で故意に非難攻撃を加え妨害する等種々の弊害を伴い、選挙が選挙人の自由な意思によつて公明かつ適正に行われることを阻害する虞が多いので、公職選挙法は選挙の公正を期するため、その第一四八条において選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り同条第三項所定の一定の条件を具備する新聞紙又は雑誌を同条にいわゆる新聞紙又は雑誌として指定し、選挙の公正を害する場合の外選挙に関する報道及び評論を掲載する自由を保障するとともに、第二三五条の二第二号において、前記の危険を未然に防止するため、ややもすればその虞のある右一定の条件を具備しない新聞紙又は雑誌に対して一律にその記事の内容が選挙の公正を害し若しくは害する虞のあると否とを問わず、選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り当該選挙に関する一切の報道又は評論の掲載を禁じたものと解される。従つてたとえ不偏不党厳正中立を堅持する新聞で現に掲載した内容が著名中央紙等と異ならないものであつても前記法条の適用から除外さるべき性質のものではなく、中央愛媛新聞が前記取締規定の対象となるべきでないとする所論は理由がない。

次に論旨は仮りに右法条が厳正中立を維持し選挙の啓蒙に尽力し社会に貢献している中央愛媛新聞にも適用ある法律とするならば、右法条は公共の福祉を害するもので憲法一般並びに憲法第一三条に違反の法律であるという。

しかし、ひとたび新聞紙等に選挙の公正を害する記事が掲載されたならばその影響するところは甚大であり、民主政治の健全な発達が阻害されるので、かかる憂慮がないように事前にその阻止を計ることこそが公共の福祉に合致するもので、論旨は中央愛媛新聞のみを中心として考えた独自の見解というの外なく、前記公職選挙法第一四八条第三項及び第二三五条の二第二号が選挙運動の期間中及び選挙の当日という短い期間を限定して選挙の公正を期し民主政治の健全な発達を図るために選挙に関する報道又は評論を掲載し得る新聞紙を制限し違反者を処罰することにしても、これは公共の福祉を図るゆえんであつて、もとより表現の自由を保障する憲法第二一条をはじめ憲法第一三条その他憲法一般の精神に反するものではない。

又かように当該選挙に関し報道又は評論を掲載し得る新聞紙を制限することはその新聞紙の規模の大小や構成の如何にはかかわりのないことで、期待可能性を欠くとの主張も、すべて国民は法の下に平等であるという憲法第一四条に違反するとの主張も理由がない。

亦検察官は犯罪を捜査し起訴を相当とするときは公訴を提起する職務と権限を有するのであつて、被告人を起訴したからといつてその措置が憲法第一五条の精神に反するものでもない。

一、被告人の控訴趣意中量刑不当の主張並びに弁護人の控訴趣意について、

被告人の論旨は仮りに有罪であるとしても原判決の科刑は過重であるから罰金刑には執行猶予を付し、公民権不停止の裁判があつて然るべきであるといい、弁護人の論旨は原判決の量刑はやや重きに失するというのである。しかし本件犯行は被告人が昭和三四年三月二八日附起訴状記載の事実につき警察並びに検察庁で取調を受け法律に違反するものであることを知りながら、前記公職選挙法の規定が表現の自由を保障する憲法に違反するという誤つた独自の見解を固執して、その後も自己の態度を改めることなく敢えて法律を無視して引続き同年五月二七日附並びに同年七月三日附各起訴事実の如く法律違反行為を継続したものであることは記録上明らかで、原判決が被告人を罰金一万円に処した上公職選挙法第二五二条第一項に規定する選挙権及び被選挙権を有しない旨の期間を二年に短縮したのは相当であつて、論旨指摘の諸事情を考慮しても本件はその罰金刑に執行猶予を付し或は公民権不停止の措置を講ずべきではないのみならず、罰金額においても多額に過ぎるものとはいえない。論旨は採用できない。

(裁判官 三野盛一 渡辺進 小川豪)

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